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東ソーが2026年8月4日に発表した2026年4〜6月期の決算は、営業利益が前年同期の161億円から312億円へ、ほぼ2倍になりました。見出しだけを見ると大きく稼いだように見えます。
ところが中身を読むと、増益のうち8割ほどは原料の値上がりで生まれた在庫の効果で、一度きりのものでした。今の稼ぎ頭は塩ビや苛性ソーダではなく、半導体・水処理・バイオの部門です。そして、利益は出ているのに現金はあまり入ってきておらず、借金が増えています。配当は年100円を下限とする方針が示されています。順番に整理します。
※この記事は公開されたIR資料をもとにした私の整理であり、東ソーへの投資をすすめるものではありません。当ブログは金融商品取引業(投資助言・代理業)の登録を受けていません。数字は2026年8月4日公表の決算短信・決算説明資料にもとづく、2026年8月時点のものです。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。
決算の数字:営業利益は161億円から312億円へ
| 項目 | 2025年4〜6月 | 2026年4〜6月 |
|---|---|---|
| 売上高 | 約2,452億円 | 2,741億円 |
| 営業利益 | 161億円 | 312億円 |
| 経常利益 | 141億円 | 343億円 |
| 純利益 | 65億円 | 195億円 |
増益の多くは「在庫の効果」
原料のナフサの価格は、1年前の1キロリットル66,300円から118,500円へ、約1.8倍になりました。中東情勢の緊迫が背景です。
駄菓子屋さんで考えてみます。100円で仕入れたジュースを120円で売っていたところ、仕入れ値が180円に上がり、売値も200円くらいに上がった。倉庫に100円で仕入れた古いジュースが残っていれば、それを200円で売って1本100円の利益が出ます。これが「在庫受払差」です。帳簿の上では大きく儲かって見えますが、次に仕入れるときは180円を払うので、一度きりのボーナスです。
会社は増益151億円の中身を分けて示しています。売れた量が増えた分が約24億円、売値と原料代の差が良くなった分が約6億円、在庫の効果を含む「固定費差その他」が約121億円。実力で増えたのは30億円ほどということになります。
特に基礎素材(塩ビ・苛性ソーダ・エチレンなど)の部門は、34億円の赤字から57億円の黒字になりましたが、そのうち在庫などの効果が約104億円です。会社自身も「出荷は減り、原燃料価格の上昇で交易条件は悪化した」と書いています。在庫の効果を除けば、この部門はまだ赤字だと私は読みました。
通期予想で見ると、稼ぎ頭が入れ替わっている
今年度全体の予想を部門別に見ると、違いがはっきりします。
- 基礎素材:前期1億円の黒字から、今期は27億円の赤字予想。売上は4,501億円から5,193億円へ増える見込みなのに、原燃料の値上がりを売値に転嫁しきれず、出荷も減るためです
- 先端事業:638億円から761億円へ増益予想。高機能材料が64億円から137億円、水処理エンジニアリングが381億円から405億円、バイオサイエンスが193億円から218億円
会社全体の営業利益予想1,050億円のうち、先端事業だけで約7割です。AI需要で半導体向けの石英ガラスが売れていることや、台湾や米国で半導体工場の水処理プラントを受注していることが理由として挙げられています。東ソーは「塩ビの会社」から「半導体を支える会社」へ変わりつつある、というのが、私がこの決算からいちばん強く受け取ったことです。
本業の稼ぐ力:経常利益はほぼ横ばいの予想
通期の営業利益は前期より95億円増える予想ですが、経常利益は1,068億円から1,070億円と、ほぼ横ばいの予想です。為替差益が66億円から△2億円に消え、借入金の利息などの負担が△3億円から△29億円に膨らむためです。
純利益は416億円から590億円へ大きく増える予想ですが、これは前期にアメリカ子会社の設備で196億円の減損損失を計上していて、今期はそれがなくなるからです。実力がその分増えたわけではないと考えています。
お財布の中身:利益は出ているのに、現金が入っていない
私がいちばん気になったのはここです。決算説明資料によると、4〜6月の営業キャッシュフローは、前年同期の365億円からわずか4億円になりました。利益は312億円出ているのに、会社に入ってきた現金は4億円。理由は、まだ回収できていない売掛金と、倉庫の在庫が増えたことなどです。
- 設備投資を引いたフリーキャッシュフローは、108億円のプラスから196億円のマイナスへ
- 有利子負債は3月末の2,351億円から6月末の2,888億円へ。1年前の1,973億円と比べると915億円増えています
- 自己資本比率は3月末の59.0%から6月末の57.3%へ
- 今年度の設備投資は、前年度の727億円から960億円へ増やす計画です
半導体材料などの成長分野に大きく投資している最中だから、という前向きな見方もできます。自己資本比率はまだ50%台後半と高いので、すぐに危ないという話ではありません。ただ、要注意ではあると私は受け止めています。
配当:年100円を下限、総還元性向50%が基本
- 年間配当は1株100円(2024年度・2025年度・2026年度予想とも同じ)
- 方針は「年間1株100円を下限」とし、総還元性向50%を基本
- 3年間で500億円の自社株買いのうち、2025年度に250億円を取得済み。残り250億円は実施時期を検討中
- 配当性向は2024年度54.9%、2025年度75.5%、2026年度予想52.2%
2025年度は利益の4分の3を配当に回していた計算で、かなり無理をしていた年でした。今期は利益が戻る予想なので、配当性向は下がる見込みです。「100円が下限」と会社が明言していることは、配当を目的に持つ人には安心材料だと思います。ただ、残りの自社株買いの時期がはっきりしないのは、借金が増えていることと無関係ではないのかもしれません。
まとめ:見出しの3ページ後ろに、本当のことが書いてある
- 営業利益がほぼ2倍になった理由の多くは、一度きりの在庫の効果
- 昔の稼ぎ頭だった基礎素材は今期赤字予想、今の稼ぎ頭は半導体・水処理・バイオ
- 現金があまり入ってきておらず、借金が1年で915億円増えた
- 配当は年100円を下限と明言し、当面は維持の姿勢
前回の決算で、私は「増益が在庫ではなく営業キャッシュフローに結びついているか」を確かめたいと書きました。資料を開くと、まさにそこが弱点として出ていました。決算書は、見出しより後ろのページに大事なことが書いてあると、改めて感じた決算です。繰り返しになりますが、この記事は東ソーへの投資をすすめるものではありません。
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