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1985年8月12日の日本航空123便の墜落事故について、公式の結論はひとつにまとまっています。1978年のしりもち事故で損傷した後部圧力隔壁の修理が適切でなかったため、与圧の繰り返しで修理部に疲労亀裂が生じて進展し、隔壁が壊れ、垂直尾翼と油圧操縦系統を失った、というものです。運輸省航空事故調査委員会の事故調査報告書(1987年6月公表)がそう述べています。この記事では、その報告書と、のちに公表された資料で確認できる範囲だけを整理しました。私は日本航空の客室乗務員として働いていましたが、ここに書くのは在職中に知った話ではなく、誰でも読める公表資料の内容です。
筆者は金融商品取引業(投資助言・代理業)の登録を受けておらず、個別の銘柄や特定の金融商品、特定の証券会社の利用を推奨するものではありません。本記事は2026年10月時点のものです。事故に関する記述は、運輸省航空事故調査委員会の事故調査報告書など公表資料にもとづいています。
事故調査報告書が示した原因
日本航空123便は1985年8月12日、東京(羽田)発大阪(伊丹)行きの便として飛行していました。機種はボーイング747SR-100型、登録記号はJA8119です。18時24分35秒ごろに異常事態が発生し、機体は群馬県多野郡上野村の山中に墜落しました。搭乗していた524人のうち520人が亡くなり、生存者は4人でした。
事故調査報告書は、原因を次の経過によるものと述べています。1978年のしりもち事故で損傷した後部圧力隔壁が不適切に修理され、その修理部に疲労亀裂が生じた。亀裂は点検整備では発見されずに進展し、隔壁の強度が下がった。事故当日、隔壁は客室の与圧に耐えられずに壊れ、続いてAPU防火壁や尾部胴体の一部が損壊して脱落した。そして垂直尾翼と油圧操縦系統が損壊し、飛行性能が低下して主操縦機能を失った、という流れです。
この四つの段階は、どれかひとつだけを取り出して語れるものではありません。七年前の修理が、点検で見つからないまま残り、与圧のたびに少しずつ進み、最後に操縦する手段そのものを奪った。報告書が描いているのは、そういう時間のかかった連なりです。
1978年のしりもち事故と、後部圧力隔壁の修理
出発点になったのは、1978年6月2日に大阪(伊丹)空港で起きたしりもち事故です。着陸のときに機体の尾部を滑走路に接触させ、後部胴体の主要な部分、後部圧力隔壁の下半分、尾部の圧力解放ドアなどが損傷しました。修理はボーイングの作業チームが担当しています。
修理の内容については、米連邦航空局(FAA)が2023年7月18日に公開した報告書が、公表資料として比較的詳しく触れています。隔壁の一部のリベット列で、リベットの縁までの余裕(エッジマージン)が足りないことが分かり、上下の隔壁をつなぐ継ぎ板(スプライスプレート)を追加する設計変更が行われました。本来の設計は、一枚の継ぎ板と二列のリベットで荷重を分散させる方式でした。ところが隔壁が曲面であるために取り付けが難しく、最終的に、承認された取り付け手順から外れた方法がとられています。
同じFAAの報告書は、この手順から外れた修理の結果として、後部圧力隔壁の疲労強度が設計値の約70パーセントまで下がり、それが隔壁の破壊につながったとしています。修理が行われたのは、事故の七年以上前です。
ここで押さえておきたいのは、強度が七割に落ちた機体が、その日いきなり壊れたわけではないということです。旅客機は上昇のたびに客室を加圧し、降下のたびに圧力を抜きます。この与圧の繰り返しが、一回ごとにはごくわずかな負荷として修理部に加わり続けました。報告書が「疲労亀裂」と呼んでいるのは、その積み重ねの結果です。
「推定される」という報告書の書き方
報告書を読んでいて、私がいちばん丁寧に受け取ったのは言葉の選び方でした。事故調査委員会は、断定できることには「認められる」、可能性が高いことには「考えられる」、断定はできないがほぼ間違いないと見ていることには「推定される」と書き分けています。
本件の原因について、報告書が使っているのは「推定される」です。つまり公式の結論は、確からしさの高い推定として示されています。これは結論が弱いという意味ではありません。調査にあたった人たちが、確かめられた範囲と確かめられなかった範囲を区別して記録した、ということだと私は受け取りました。
この書き分けがあるので、報告書に書かれていないことを補って語るのは、やはり違うのだろうと思います。誰がどの段階で何を見落としたのか、何人が関わっていたのか、そのとき現場で何を考えていたのか。そうした人に踏み込む話は、報告書が認定していません。私にも分かりません。亡くなった方のご遺族がいまも読む可能性のある題材で、確かめられない推測を書き足すことはしないでおきます。
垂直尾翼と油圧系統を同時に失うということ
隔壁が壊れたあとに起きたことのうち、操縦に決定的だったのは、垂直尾翼と油圧操縦系統の損壊です。FAAの報告書も、後部胴体と垂直尾翼の損傷にともなって油圧の四系統すべてが損なわれ、主要な操縦機能が失われたとしています。
大型機は油圧で舵を動かします。系統が四つあるのは、どれかが失われても残りで飛べるようにするためです。その四つが同じ場所を通っていたために、一度の損壊でまとめて失われました。設計の前提が、想定していなかった形で崩れたということになります。
この日の飛行は、異常発生から墜落までおよそ32分です。操縦系統を失った状態で、乗務員がエンジンの推力などを使って機体を保とうとしたことは報告書やFAAの資料にも記録されています。機内で何が起きていたかについては、公表資料の範囲を越える書き方はしません。
報告書の建議と、その後に積み上げられたこと
事故調査報告書は原因を示すだけで終わっていません。航空事故調査委員会は、緊急時や異常事態における乗組員の対応能力を高める方策を検討するよう、運輸大臣に建議しました。
これを受けて運輸省は、1987年9月から1989年6月にかけて方策を策定し、検討会を設けています。その結果として、実際の運航に近い状態での操縦訓練を導入するなど、訓練の改善がまとめられ、定期航空運送事業者に周知されました。
仕組みそのものも変わりました。2008年に航空事故調査委員会は運輸安全委員会へ改組され、被害者やその家族・ご遺族へ情報提供を適時かつ適切に行うことが、法律上明記されています。
| 年 | 公表資料で確認できること |
|---|---|
| 1978年6月 | 伊丹空港でのしりもち事故。後部圧力隔壁の下半分などを修理 |
| 1985年8月 | 日本航空123便の墜落事故 |
| 1987年6月 | 運輸省航空事故調査委員会の事故調査報告書を公表。乗組員の対応能力に関する建議 |
| 1987年9月〜1989年6月 | 運輸省が方策を策定。実際の運航に近い操縦訓練の導入など訓練改善を周知 |
| 2008年 | 航空事故調査委員会が運輸安全委員会へ改組。遺族への情報提供を法律上明記 |
| 2023年7月 | FAAが報告書を公開。修理の手順逸脱と疲労強度の低下に言及 |
この会社で働いていた人間として、報告書をどう読んだか
私がこの会社で客室乗務員として働いていたのは、事故よりあとの時期です。社内で聞いた話を書くことはしません。書けるのは、同じ会社の制服を着ていた人間として、公表された記録をどう受け止めたかというところまでです。
報告書を通して読んで残ったのは、安全というのは誰かの気合いで保たれるものではない、という当たり前のことでした。一枚の継ぎ板の付け方という、ごく具体的な手順の話が、七年という時間をはさんで最悪の結果につながっている。手順どおりにやる、記録に残す、点検で見つける。その地味な積み上げのどこかが欠けると、あとから取り返せないことがある。
もうひとつは、520人という数字を数字として扱わないようにしよう、ということです。この事故について調べていると、原因の説明や制度の変化といった話に意識が向きがちです。けれど報告書の向こうには、一人ひとりの人生があり、いまも毎年8月に上野村へ向かうご家族がいます。私が書けることは限られていて、限られているほうがいいのだと思っています。
公表資料で確認できることと、確認できないこと
この記事を書くために私が見たのは、運輸安全委員会が公開している事故調査報告書の解説資料と、FAAの報告書について報じられた内容です。原因の経過、建議、その後の訓練改善や組織の改組は、そこで確認できました。
一方で、確認できなかったことも書いておきます。報告書の公表は1987年6月までは確認できましたが、日付までは手元の公表資料では確かめられませんでした。また、修理の手順からどのように外れたのか、最終的にリベットが何列になったのかという具体的な部分は、私が読める公開範囲では確かめられていません。はっきりしない数字は、書かないことにしました。
この事故には、公式の調査結果とは別の原因を唱える本や動画が数多くあります。私はそれらをここで紹介も反証もしません。公式の結論は事故調査報告書にあり、私が記事の土台にするのはそれだけです。
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