※本記事にはプロモーション(PR)が含まれます。
先に結論を書きます。アネスト岩田(6381)の配当利回りが高く見えるのは、業績が急に良くなったからではありませんでした。配当を決めるモノサシを、配当性向からDOE(株主資本配当率)に変えたからです。ここを知らずに利回りだけを見ると、判断を間違えると私は思いました。
2026年3月期の一株配当は87円。前の期の45円から、ほぼ倍増しています。一方で、その前の2025年3月期には一度減配もしています。良いところだけを見ないように、有価証券報告書を自分で開いて確認した記録を残します。
なお、これは私が調べた記録であり、購入を勧めるものではありません。数字は2026年9月時点で私が確認したものです。
※本記事は私個人の考えと調べたことの紹介であり、特定の銘柄・商品の購入を推奨するものではありません。当ブログは金融商品取引業(投資助言・代理業)の登録を受けていません。数字は2026年9月時点のもので変わります。投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。
アネスト岩田(6381)はどんな会社か
アネスト岩田は1926年創業、2026年に創業100周年を迎える横浜市港北区の産業機械メーカーです。私が住む横浜の会社でもあります。事業は大きく2つに分かれています。
コーティング事業(塗装機器)
ハンドスプレーガンでは国内トップシェア・世界シェア2位、エアーブラシでは世界シェア30%程度を持っています。車のボディの塗装は、ほぼこの会社のスプレーガンで塗られていると言っていい水準です。プラモデル用のエアーブラシも同社製が定番とされています。
エアエナジー事業(圧縮機・真空機器)
売上構成比は約62%で、実はこちらが本体です。主力のコンプレッサは国内シェア30%以上、真空機器は約50%の国内シェア。食品の真空パック工程などにも使われています。
名前を直接知られている会社ではないけれど、車・食品・医療・電子機器の製造現場を裏から支えているBtoBの会社、という位置づけです。
日本に必要な会社か|「世界初」を重ねてきた技術
国内外で1,200件を超える特許出願を持ち、開発型の会社として技術で勝負しています。私が注目したのは「世界初」の多さでした。
1991年3月に世界初のオイルフリー圧縮機を発売、1992年には世界で初めてオイルフリーのドライスクロール真空ポンプを開発しています。油を使わないクリーンな圧縮・真空技術は、日本のものづくりの品質を支える基盤で、代替が効きにくい存在だと私は受け止めました。
半導体・AI関連としての位置づけ
同社のオイルフリー真空ポンプは、スパッタリング装置、蒸着装置、イオンプレーティング装置などに使われています。スパッタリング装置・蒸着装置は半導体製造の中核工程です。
潤滑油を使わない設計のため、半導体分野や食品分野、医療分野からの需要拡大が見込まれるとされています。AIで半導体需要が伸びれば、その製造装置に組み込まれる真空ポンプも間接的に恩恵を受ける——いわば「ツルハシを売る」側の位置にいる会社だと理解しています。
海外での稼ぐ力|インド・東南アジアが伸びている
2024年度の海外売上比率は66.3%で、22の国と地域に31の子会社を展開しています。すでに売上の3分の2が海外です。
- インド|ANEST IWATA MOTHERSON Ltd.を2000年に設立。圧縮機本体は中国製、その他の部品をインドで調達して「Make in India」政策に対応。中形圧縮機の組立工場を建設中です。
- 東南アジア|インドや東アジアで小形圧縮機の売上が伸びています。
- アフリカ|南アフリカに拠点があります(欧州・アフリカ地域)。
- 欧米|欧米の塗装機器や、中国からの圧縮機輸出が好調です。
将来目標として、2035年度に売上高1,000億円(現在の約2倍)を掲げ、その手段の中心にM&Aを据えています。
配当の推移|2025年3月期に一度減配しています
まず、良いところだけを見ないために、配当の推移から確認しました。
| 年度 | 一株配当 | 前年比 |
|---|---|---|
| 2020/03 | 24円 | — |
| 2021/03 | 24円 | 0%(維持) |
| 2022/03 | 30円 | +25.0% |
| 2023/03 | 38円 | +26.7% |
| 2024/03 | 49円 | +28.9% |
| 2025/03 | 45円 | ▲8.2%(減配) |
| 2026/03 | 87円 | +93.3% |
| 2027/03予 | 93円 | +6.9% |
5年(2021→2026)の年平均増配率は約29.4%と高い水準です。ただし2025年3月期に一度減配していることは、隠さずに書いておきたい点でした。期初予想比5円減の年間45円です。
そして2026年3月期に87円へ跳ね上がった。普通の会社ではあまり見ない動きで、私はここで「なぜ」と立ち止まりました。
DOE転換とは何だったのか
配当のモノサシを変えたから、配当が倍になった
有価証券報告書に明記されています。会社は2026年3月期より、従来の配当性向に代わり株主資本配当率(DOE)を指標として採用し、DOE7.0〜7.5%を目安とする、と。これが利回り急上昇の正体でした。
この2つのモノサシは、配当を決める「もと」がまったく違います。
| 指標 | 配当の「もと」 | 性質 |
|---|---|---|
| 配当性向(旧) | その年の利益 | 景気や為替で毎年ブレる。利益が落ちた年は減配になりやすい |
| DOE(新) | 積み上げた自己資本 | 毎年コツコツ増え、めったに減らない |
2025年3月期の減配(配当性向32.7%)は、まさに前者の仕組みで起きたものでした。アネスト岩田の自己資本比率は68.0%、利益剰余金は426億円まで積み上がっています。この分厚い土台の7%を配ると決めた瞬間に、配当額が跳ね上がったわけです。
実際に検算すると、配当総額34.44億円 ÷ 自己資本507.45億円 = 6.79%。会社の目安である7.0〜7.5%とほぼ一致しており、辻褄は合っていました。
もし配当性向のままだったら
2026年3月期のEPS136.04円で試算した比較です。
| 前提 | 一株配当 | 利回り |
|---|---|---|
| 配当性向45%のまま | 約61.2円 | 約3.50% |
| DOE導入・実際の87円 | 87円 | 約4.97% |
| DOE・2027年予想93円 | 93円 | 5.31% |
つまり利回り5.31%のうち、半分以上は「業績が良くなったから」ではなく「配当の決め方を変えたから」生まれた数字です。ここは私が一番押さえておきたかったところでした。
ただし、正直に見ておきたい3つの注意点
- 利回りが高いのは、株価が上がりきっていない裏返しでもあります。 配当を倍にしたのに株価がそれほど跳ねていないため、結果として利回りが高く出ています。市場がまだこの増配を織り込んでいない、とも読めます。
- DOEにも「業績次第」の但し書きがあります。 有報は累進的な増配をうたう一方で、「連結業績及び財政状態に急激な変動等が生じた場合を除き」という条件を明記しています。リーマン級のショックが来れば見直される可能性はゼロではありません。
- 株価は30年チャートで最高値圏です。 利回りが5%でも、株価そのものが高値圏にあるため、値下がりのリスクは別にあります。「高配当だから安全」ではなく「高配当だが株価の水準は高い」と、分けて見るようにしています。
有価証券報告書で確認した財務
四季報だけでは分からない部分を、一次情報で確認しました。
流動比率 = 流動資産47,507百万円 ÷ 流動負債13,677百万円 = 347.3%
私が目安にしている「流動比率200%以上」を大きく超えています。短期の支払い能力に不安はなさそうです。さらに、短期借入金899百万円に対して現金及び現金同等物の期末残高が18,096百万円。借金の20倍の現金を持っている状態で、実質無借金と言っていい財務でした。
| 指標 | 2022/3 | 2023/3 | 2024/3 | 2025/3 | 2026/3 |
|---|---|---|---|---|---|
| 自己資本比率 | 63.8% | 66.6% | 66.8% | 67.7% | 68.0% |
| ROE | 10.4% | 11.6% | 11.7% | 9.4% | 11.0% |
| EPS(円) | 86.32 | 108.25 | 122.13 | 108.21 | 136.04 |
| 営業CF(百万円) | 3,889 | 4,329 | 6,770 | 9,746 | 8,145 |
ROEは一度9.4%まで落ちたあと11.0%に戻っています。営業CFは毎年プラスで、本業でしっかり現金を稼いでいることが確認できました。
営業利益率は2026年3月期で9.95%。過去10年はおおむね11〜13%台で安定していましたから、直近はやや低下しています(2024年3月期11.56%→2026年3月期9.95%)。原因は海外を中心とした人件費の増加です。
私が見ている目安と照らすと
私は会社を見るときに、いくつかの目安を決めています。その目安で今回の数字を並べてみました。
| 私の目安 | アネスト岩田 | 判定 |
|---|---|---|
| 配当利回り 3.75%以上 | 5.31%(予想) | 満たす |
| PBR 2倍以下 | 1.36倍(実績) | 満たす |
| 自己資本比率 50%以上 | 68.0% | 大きく満たす |
| 流動比率 200%以上 | 347.3% | 満たす |
| 増配基調 | 5年平均約29%(1年減配あり) | おおむね満たす |
| 営業利益率 | 約10% | 満たす |
| 本業で稼ぐ(営業CFプラス) | 営業CF81.5億円 | 満たす |
| 日本・世界に必要な会社か | 塗装・圧縮機で高シェア | 満たす |
| 半導体・AI関連 | 真空ポンプが製造装置に採用 | 満たす |
| 海外成長性 | 海外比率66%、インド・ASEAN伸長 | 満たす |
自分の目安には高い水準で合っていました。ただし、2025年3月期の一度の減配という事実は、合格の判定とは別に覚えておきたい点です。
有報を読んで良いと思った5つの点
- 実質無借金の財務基盤。 自己資本比率68.0%、流動比率347%、現金181億円。この財務なら、不況やショックが来ても簡単には倒れないと私は受け止めました。勤めていた会社の経営破綻を見てきたので、ここは私がいちばん重く見るところです。
- 増配の「仕組み」を作ったこと。 DOE7.0〜7.5%を目安に、2026年3月期の配当金額を下限として累進的な増配を実施すると明記されています。期末配当は1株46.0円の予定です。2025年3月期の減配に対する、会社なりの答えがこの方針転換だと理解しました。
- 世界初の技術が環境という追い風に乗っていること。 オイルフリースクロール圧縮機を進化させ、省エネとCO2排出削減に貢献。利益率の高いオイルフリー圧縮機の売上増が欧州の利益を押し上げています(欧州セグメント利益は前期比+22.5%)。環境規制が強まるほど有利になる商品構成です。
- 海外の稼ぐ力。 販売実績は日本194億円、欧州98億円、米州69億円、中国113億円、その他85億円と地域が分散しています。タイやインドでの中形圧縮機の販売拡大、インドの自動車部品製造向け大型塗装設備の納入が伸びています。
- 成長の設計図が数字で示されていること。 2028年3月期に連結売上高620億円以上・営業利益61.7億円以上・ROE11.0%以上、その先の2036年3月期に売上高1,000億円という「Vision2035」を掲げています。
気になった4つの点
- 増収減益になっていること。 2026年3月期は売上高559億円(前期比+2.8%)と過去最高なのに、営業利益は55.6億円で前期比5.8%減。経常利益・純利益は増えているのに、本業の利益だけが落ちています。有報によれば主因は海外を中心とした人件費の増加です。
- 中国事業の落ち込み。 中国セグメントは売上高122億円で前期比2.3%減、セグメント利益は517百万円で前期比41.4%減と大きく落ちました。中国市況の低迷による圧縮機子会社の業績悪化と、リチウムイオン電池製造関連装置向け真空ポンプの販売低迷が原因です。半導体・AI需要の中国依存という弱点でもあります。
- 為替に業績が振り回されること。 海外売上比率が過半を占めるため、有報自身が「予測困難かつ急激な為替変動により経営成績等に影響が生じるリスク」を主要リスクに挙げています。円高になると利益が目減りする構造です。
- M&Aによる「のれん減損」リスク。 1,000億円目標の達成手段としてM&Aを積極化しているため、有報は関係会社が保有する固定資産・のれんの減損損失の判定を重要な会計上の見積りとして挙げています。買収がうまくいかなければ、減損で利益が削られる可能性があります。
会社は課題にどう手を打っているか
私がいちばん知りたかったのは、弱点に対して会社が何をしようとしているかでした。有報の「対処すべき課題」を読むと、そこは書かれていました。
- 人件費増への対応|人件費増を「成長投資」と位置づけ、成果に応じて評価される制度を強化し、働きがいを感じられる職場環境の整備を進めるとしています。人を減らすのではなく、生産性で回収する方針です。
- 中国依存への対応|事業拡大の主戦場を海外市場と位置づけ、エリアごとに成長戦略を策定。既存の市場や製品に固執するリスクを明記した上で、周辺分野や新規領域でのM&Aを含む「新領域の創出」に注力すると宣言しています。
- サプライチェーン寸断への対応|サプライヤーごとにBCP(事業継続計画)を策定し、海外での一国集中生産についてはサプライヤーと生産地の追加を進めるとしています。
- DX・生成AIの活用|生産現場や営業活動でデータや生成AI技術を活用した取り組みが進んでおり、これを拡大して業務効率の向上を目指すと明記。同時にサイバーリスクへの対応も課題として認識しています。
後発事象として、2026年4月28日開催の臨時取締役会で、圧縮機器製造・販売の株式会社SANWAの全株式を取得することを決議しています。1,000億円目標に向けたM&Aが、言葉だけでなく実行に移されている形です。
まとめ
- 利回り5.31%の半分以上は、業績ではなく配当の決め方をDOEに変えたことから生まれた数字でした。
- 財務は自己資本比率68.0%、流動比率347.3%、実質無借金。本業のキャッシュも毎年プラスです。
- 一方で、2025年3月期の減配、増収減益、中国の落ち込み、為替とのれんのリスクは残ります。
- 私は、良い数字と気になる数字の両方を有報で確かめてから考えることにしています。「専門家が良いと言ったから」で決めないことが、私の唯一のルールです。
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