天皇陛下が飛行機で移動されるとき、どんな機体に乗られるのか。調べてみると、大きく2種類あります。
ひとつは、民間の航空会社の飛行機をチャーターする「特別機」。もうひとつは、自衛隊が運航する「政府専用機」です。
私は日本航空で約30年、国際線の客室乗務員をしていました。特別機は、社内でもごく限られた人しか乗務できない便です。その中身を、わかる範囲で書いていきます。
| 特別機 | 政府専用機 | |
|---|---|---|
| 運航するのは | 民間の航空会社(JAL・ANAなど) | 航空自衛隊 |
| 機体 | 民間の旅客機をチャーター | 日の丸が描かれた専用機 |
| 乗務員 | その航空会社のパイロット・客室乗務員 | 全員が航空自衛官 |
| 飛び方 | 1機 | かならず2機で飛ぶ |
特別機とは|民間の航空会社をチャーターする便
天皇陛下や首相などの要人が、民間の航空会社の飛行機をチャーターして公式に移動されることを、私たちは「特別機」と呼んでいました。ご搭乗は貴賓室から専用車で機内へ、という流れになります。
どうやって航空会社が決まるのか
基本は競争入札です。ただ、JALとANAの2社がどちらも入札するとは限りません。その場合は随意契約になります。
国が予算を公正に扱うために競争契約が原則ですが、不利益が出る場合や、契約の目的が競争になじまない場合には随意契約が認められています。随意契約でも、航空会社から見積書をとり、価格が適正かを検討したうえで契約されています。
グレードA・B・Cという分類
公式か非公式かで取り扱いが変わり、次のように区別されています。
| 国内線 | 国際線 | |
|---|---|---|
| グレードA | 天皇・皇后 | 天皇・皇后 |
| グレードB | 皇太子・同妃や首相 | 皇太子・同妃や首相/海外からの国賓 |
| グレードC | 首相が首相の立場でないとき | 首相が首相の立場でないとき |
グレードによって、機材選びから機内のクリーニングまで、準備の中身が変わります。
政府専用機とは|自衛隊が運航する日の丸の機体
政府専用機は、自衛隊が管轄している、日の丸が描かれた飛行機です。機内はソファーや机が並んでいます(もちろんシートベルトは装備されています)。
乗っているのは全員、航空自衛官
操縦士、航空士、機上無線員、客室乗務員、運航をバックアップする運航管理者、そして7人の整備要員。すべて航空自衛官です。
客室乗務員もすべて航空自衛官で、サービスの訓練はJALやANAの訓練施設で受けています。
かならず2機で飛ぶ
運航のときは、2機の政府専用機が一緒に飛びます。何があっても対応できるようにという備えです。
特別機に乗務できる客室乗務員は、全体の約0.1%
ここからは、私の元いた側の話です。特別機にフライトできる客室乗務員は、全体のおよそ0.1%。選ばれる人は社内でも有名で、成績優秀、昇格が早く、訓練部の教官を経験している人が多いのが特徴でした。
選ばれる人の条件
- 第一印象が良く、控えめで品位のある身だしなみ。好印象な表情と、親しみのある視線、信頼感の持てる立ち居振る舞いができる
- 正しい言葉遣いと、感じの良い話し方ができる
- お客様だけでなく仲間に対しても、相手の心をつかむコミュニケーション能力がある
- 文化や習慣の違いを踏まえた対応と、プロフェッショナルなおもてなし力がある
- ビジネスマナーの基本を習得し、あらゆる場面に対応できる
- クレームを未然に防ぐ勘所を押さえ、あらゆるクレームに対応できる
- チーム力を上げるためのコーディネーション能力がある
1週間から10日の、特別な訓練
担当が決まると、1週間から10日ほどの訓練期間があります。特別機だけに搭載される備品の仕組みと扱い方、日本の歴史や文化、そして宮中の作法まで学びます。
正直に書くと、私は呼ばれたことがありません
社内でも優秀な人だけが飛べる便でしたので、私に声がかかったことは一度もありませんでした。ただ、選ばれた同僚たちが訓練から戻ってきたときの、あの引き締まった顔つきは今でも覚えています。
ある航空会社の社長が「万が一、事故があったら命をもって償う」と語ったという記事を週刊誌で読んだことがあります。本当にそう言ったのかは分かりません。ただ、現場の空気としては、それくらいの重さがある便でした。
皇室とは
皇室とは、皇后・太皇太后・皇太后・親王・親王妃・内親王・王・王妃・女王の方々を指します(宮内庁HP 皇室典範第5条より)。
まとめ
- 天皇陛下が乗られる飛行機は、民間機をチャーターする「特別機」と、自衛隊が運航する「政府専用機」の2種類です
- 特別機の航空会社は競争入札が原則で、1社しか入札しない場合は随意契約になります
- 政府専用機は乗員全員が航空自衛官で、かならず2機で飛びます
- 特別機に乗務できる客室乗務員は全体の約0.1%。1週間〜10日の専用訓練を受けます


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