「いつの間にか富裕層」という言葉が話題になっています。野村総合研究所(NRI)の推計によると、純金融資産1億円以上の「富裕層・超富裕層」は165.3万世帯。でも、ニュースがあまり触れない大事なことが2つあります。
1つめ。この人たちの多くは、ゼロから1億円になったのではありません。5,000万円台だった人が、この十数年の株高で1億円に乗った、というケースが大半です。2つめ。NRIが分類した富裕層のうち、多くは50代・60代です。つまりこれは、一部の特別な人の話ではなく、私たちの世代の話なんです。
※本記事は公表統計と筆者個人の経験の共有を目的としたものであり、特定の金融商品・銘柄を推奨するものではありません。詳しくは記事末尾の免責事項をご覧ください。
1. 「富裕層」は何世帯いるのか(NRI推計)
数字の出どころは野村総合研究所(NRI)です。日本の世帯を純金融資産(預貯金・株式・債券・投資信託・一時払い保険等の合計から負債を差し引いた額。持ち家などの不動産は含みません)の保有額で5階層に分類し、2005年から隔年で世帯数を推計・公表しています。
| 階層 | 純金融資産 | 世帯数 | 全体に占める割合 | 何世帯に1世帯か |
|---|---|---|---|---|
| 超富裕層 | 5億円以上 | 11.8万世帯 | 0.21% | 約470世帯に1 |
| 富裕層 | 1億〜5億円 | 153.5万世帯 | 2.76% | 約36世帯に1 |
| 準富裕層 | 5,000万〜1億円 | 403.9万世帯 | 7.25% | 約14世帯に1 |
| アッパーマス層 | 3,000万〜5,000万円 | 576.5万世帯 | 10.35% | 約10世帯に1 |
| マス層 | 3,000万円未満 | 4,424.7万世帯 | 79.43% | — |
累計で見ると印象が変わります。1億円以上(富裕層+超富裕層)は165.3万世帯で全体の2.97%、約34世帯に1世帯。5,000万円以上(準富裕層以上)まで広げると569.2万世帯、全体の10.2%、約10世帯に1世帯です。3,000万円以上(アッパーマス層以上)なら1,145.7万世帯、全体の20.6%、約5世帯に1世帯まで増えます。1億円は遠く感じても、3,000万円ならご近所の10軒のうち2軒は、もうそこにいる計算です。
増え方にも注目してください。富裕層+超富裕層は2021年の148.5万世帯から2023年に165.3万世帯へ、+11.3%増加しました。準富裕層も2021年比+24%です。
2. アベノミクス期と今、似ている点・違う点
2013年に始まったアベノミクス以降、日本株は大きく上昇しました。この13年間、現金だけで資産を持っていた人は、この値上がりの恩恵をほとんど受けられていません。「いつの間にか富裕層」が生まれた裏側には、「いつの間にか置いていかれた人」が同じだけいる、というのが実態です。
なお、アベノミクスの評価そのものは意見が分かれています。株価は上がった一方で実質賃金の伸びは長く鈍く、金融資産を持つ人ほど恩恵を受けたことで資産格差が広がったという指摘があり、掲げられた2%の物価目標も長らく安定的には達成されませんでした。ここで確かに言えるのは「政策の良し悪し」ではなく、「資産を持っていた側にいたかどうかで、13年間の結果が大きく分かれた」という事実だけです。
NRIの165.3万世帯という数字は2023年時点の推計です。2023年末のTOPIXは2,366でしたが、2026年8月7日時点では4,074.93まで上昇しています。日経平均も2025年10月に初めて5万円台、2026年4月に6万円台、2026年6月には7万円台に到達しました。次回のNRI推計(2027年頃発表見込み)では、この数字がさらに大きくなっている可能性があります。
アベノミクス期と今の共通点
| 項目 | アベノミクス期(2013〜) | 今(2026) |
|---|---|---|
| 株価トレンド | 最高値更新の連続 | 最高値更新の連続 |
| 為替 | 円安(86円→125円台へ) | 円安が継続 |
| 海外投資家の買い | 大量流入 | 2026年は5月下旬まで8週連続買い越し、累計約11.7兆円 |
| ガバナンス改革 | スチュワードシップ・コード等導入 | 東証のPBR改善要請の果実が出ている段階 |
共通するのは、「もう遅いのでは」と思った人が、実は一番損をしやすいという点です。
今の方がいい点・厳しい点
今の方がいいのは、非課税で運用できる器(新NISA・iDeCo)が以前より大きく拡充されていることです。一方で注意したい点もあります。1つは値動きの振れ幅が大きいこと。50代60代は、この揺れに耐える時間が20代より短いため、生活防衛資金を厚めに持つ必要があります。もう1つは、指数が上がっても自分の株が上がるとは限らないことです。2026年4月27日〜6月18日の日経平均上昇のうち約91%は上位10銘柄の寄与で、同じ期間にTOPIX構成銘柄の46.5%は下落していました。日経平均が最高値と聞いて自分の口座を見ても増えていない場合、指数と個別株の値動きは別物だと理解しておく必要があります。また、日銀は2025年12月に利上げを実施しており、預金金利がつく一方で株のバリュエーションには重石になる可能性があります。
アベノミクスの13年間で「いつの間にか富裕層」が生まれました。今から始める人が同じ倍率の値上がりを期待するのは現実的ではありませんが、非課税制度や配当、手数料の低さという点では、今の方が有利な面もあります。
3. 「1段上がる」ための具体例
以下は、NRIの分類や公表統計をもとに組み立てたモデルケースです。実在の個人ではなく、運用利回りは仮定であり、将来の運用成果を保証するものではありません。
ケース1|退職金を一気に投じなかった60代前半
- 60歳時点:退職金2,000万円+既存貯蓄1,500万円=3,500万円
- やったこと:退職金を一括投入せず5年かけて分割投資。生活防衛資金1,000万円は現金のまま確保
- 65歳以降も継続雇用で就労し、年金は繰下げ受給を選択
- 運用部分2,500万円を仮に年4%で15年運用した場合、約4,500万円
- 現金分と合わせて5,500万円台=準富裕層に相当
ポイントは「分けて投じた」「働き続けた」「年金の受給を後ろにずらした」の3つだけです。
ケース2|配当の再投資を続けた場合の試算例
分散ポートフォリオ(想定利回り5%相当)で配当を全額再投資し、48歳時点で初期資金500万円から実質年5%(値上がり+配当)で20年間運用したと仮定すると、68歳時点で約2,700万円になる計算です。そこから取り崩さず配当だけを受け取る生活に切り替えると、2,700万円×3.5%=年94.5万円(税引後約75万円、月換算で約6.3万円)が年金に上乗せされる計算になります。あくまで一定の利回りを仮定した試算であり、将来を保証するものではありません。
4. 50代・60代の「今」を数字で見る
金融経済教育推進機構(J-FLEC。金融庁が設立に関わった、お金の教育のための公的機関で、特定の金融商品を販売する機関ではありません)の2025年調査によると、金融資産保有額は次のようになっています。
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 二人以上世帯 全体 | 1,940万円 | 720万円 |
| 50代 二人以上(保有世帯のみ) | 2,344万円 | 1,050万円 |
| 60代 二人以上(非保有含む) | 2,683万円 | 1,400万円 |
60代の二人以上世帯の分布を見ると、3,000万円以上が27.2%で最多層、2,000万円以上まで含めると約4割(39.6%)に達します。一方で金融資産なしの世帯も12.8%あります。つまり60代の二人以上世帯は、すでに4世帯に1世帯が3,000万円以上(アッパーマス層以上)に到達しており、「いつの間にか富裕層」は特殊な人たちではなく、この分布の上の方が株高でもう一段押し上げられた結果だと考えられます。
まとめ
「いつの間にか富裕層」165万世帯は、日本の全世帯の一部にすぎませんが、その多くは5,000万円台から株高で1段上がった人たちです。そして60代の二人以上世帯は、すでに27%が3,000万円以上を保有しています。目指すべきは1億円という遠い数字そのものではなく、今の資産から1段上がることだと私は考えています。そのための手段は、NISAやiDeCoといった非課税制度の活用、配当の積み上げ、そして繰下げ受給や就労継続の検討など、今日から確認できるものばかりです。
免責事項
本記事は、公表された統計データ(野村総合研究所、金融経済教育推進機構、厚生労働省等)にもとづく情報提供および筆者個人の経験の共有を目的としたものであり、特定の金融商品・銘柄の推奨や投資勧誘を目的とするものではありません。筆者は金融商品取引業者(投資助言・代理業)の登録を受けていません。記事内の試算はすべて一定の利回りを仮定したシミュレーションであり、将来の運用成果を保証するものではありません。投資には元本割れの可能性があります。制度の内容は今後変更される可能性がありますので、必ず最新の一次情報をご確認のうえ、投資判断はご自身の責任において行ってください。
出典について
本記事の数字は主に2つの機関の公表データにもとづいています。1つは野村総合研究所(NRI、東証プライム上場・証券コード4307)で、2005年から隔年で「純金融資産保有額別の世帯数」を推計・公表しています。超富裕層・富裕層・準富裕層・アッパーマス層・マス層という5階層の区分は、法律や政府が定めたものではなくNRI独自の定義です。もう1つは金融経済教育推進機構(J-FLEC)で、国税庁統計や総務省の家計調査などをもとにした世帯の金融資産に関する調査を行っています。

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