今回は、私が実際にIRへ電話取材までして調べた「ニホンフラッシュ(7820)」について、有価証券報告書と18年分の業績データをつき合わせながら、じっくり解説していきます。「大赤字を出したのに、実は現金をしっかり稼いでいた会社」という、高配当株投資家としてはとても勉強になる一社です。
1. そもそも、どんな会社?
ニホンフラッシュは、マンションの「室内ドア」を作っている会社です。玄関ドアではなく、部屋と部屋を仕切るドアですね。日本と中国の両方で商売をしていて、特に中国では「内装付きマンション」(最初からドアや床がついた状態で販売されるマンション)向けにドアを大量に納めることで大きく成長してきました。
会社の総資産は2008年の95億円から、今では443億円。18年でおよそ4.7倍です。中国のマンションブームの波にうまく乗って規模を拡大してきた会社、といえます。
2. 今の株価と、市場からの評価
2026年7月16日時点の株価は721円。ここに大事な数字が3つ並んでいます。
| 指標 | 数字 | 意味 |
|---|---|---|
| 予想配当利回り | 4.99% | 100万円分持つと年に約5万円もらえる計算 |
| PBR | 0.52倍 | 会社の純資産の半分の値段でしか評価されていない |
| 予想PER | 18.25倍 | 来期の利益に対しては、実はそれほど割安ではない |
PBR0.52倍というのは、たとえるなら「1,397円が入った財布が721円で売られている」ような状態です(1株あたり純資産=BPSが1,397円)。数字だけ見れば、いかにも割安に見えますよね。でも市場は「その財布には中国という落とし穴があるから半額」と値付けしている——ここがこの銘柄を読み解く核心だと私は考えています。
3. 株価はなぜ下がり続けたのか
直近2026年3月期の会社予想が、売上210億円・純利益9億円と「また減収減益」の見通しだったからです。会社自身もIRで「2026年度は明るくない。明るいのは2028年から」と話しており、構造改革の谷間にあたる年で、市場はそれを織り込んでいます。予想PERが18.25倍と割安に見えないのも、利益が一時的に小さい年で計算しているためです。
4. 中国で何が起きたのか
IRに直接うかがったところ、原因は「バブルがはじけた」というより「政府がお金の蛇口を閉めた」ことにあるそうです。中国のマンション会社は「土地を買う→借金する→マンションを建てて売る→また借金する」というサイクルで回っていたのに、政府の規制で借金ができなくなり、手持ちのマンションを安売りしてでも現金を作るしかなくなった。だから値段が下がった、という順番です。
一方、有価証券報告書には「中国の都市化・内装付住宅の推進という長期的な需要は引き続き存在する」と書かれています。つまり「家が欲しい人がいなくなったわけではなく、お金の流れが詰まっただけ」というのが会社の見立てで、政府規制という構図とも整合します。ただし現実は厳しく、有報には「中国の不動産上場108社のうち59社が最終赤字」との記載もあります。半分以上が赤字なのです。
5. 最大のポイント:「27.9億円の大赤字」の正体
2025年3月期の27.9億円の赤字。その中身を開けてみると、主役は貸倒引当金24.1億円+不動産の減損11.5億円でした。
引当金というのは、たとえば友だちに1,000円貸していて「あの子、返せないかもしれないから、返ってこない前提で帳簿に『▲1,000円』と書いておこう」とメモしておくようなものです。実際にお金が消えたわけではなく、あくまで「用心のためのメモ」。会計ルール上、このメモを書いた瞬間に赤字として計上されます。
これが本当かどうかは、キャッシュフロー(実際のお金の出入り)で確かめられます。ここが今回の分析でいちばんきれいに証明できた部分でした。大赤字を出したその年に、営業キャッシュフローではしっかり現金を稼いでいたのです。つまり赤字の正体は「実際にお金が出ていった赤字」ではなく「会計上の慎重な引当による赤字」だった、ということになります。
6. 2026年3月期の成績表——V字回復の中身
- 売上高:234億円(前期比▲2.2%と微減)
- 営業利益:17.4億円(+125.3%、2倍以上)
- 純利益:14.2億円(27.9億円の赤字から黒字転換)
- 中国は営業利益3.26億円の黒字(前年は2.34億円の赤字)——「中国はもう利益が出ている」というIRの説明は事実
- 日本も営業利益14.1億円(+40.6%)。国内の新築住宅が▲12.9%と冷え込む中、値上げと物流コスト改善で増益
7. 営業利益率で見る「稼ぐ力」の歴史
営業利益率=売上100円のうち何円がもうけになるか、です。
- 全盛期(2014〜2016年、2020年):15〜18%。100円売って15〜18円もうかる高収益企業でした
- どん底(2025/3期):3.23%
- 直近(2026/3期):7.44%(営業利益17.5億円÷売上235億円)
- 来期予想:6.67%
つまり「どん底からは回復したが、まだ全盛期の半分」。原価率が全盛期の62〜65%から直近75%まで上がっているのが理由で、中国での安値競争と数量減の影響です。ここが15%に戻せるかどうかが、株価復活のカギになると見ています。
8. 財務の健康診断——ここは文句なしの優等生
自己資本比率は71.7%。会社の全財産443億円のうち、約318億円が「借りたお金ではない、自分のお金」という意味です。私が重視している基準(50%以上)を余裕でクリアしています。しかも18年間、一度も58%を下回ったことがなく、中国不動産危機のど真ん中でも70%台を守り抜きました。
- 現金・預金:116億円(時価総額約164億円に対してとても厚い)
- 借金(有利子負債):たった23.4億円。現金の5分の1です。2016〜2017年は無借金でした
- 利益剰余金(過去のもうけの貯金):219億円
9. 16年間、減配なし——配当の実力
一株配当は2010年の5円から、5円→7.5円→10円→15円→20円→25円→27.5円→28円→32円→36円と階段を上がり続け、2010年以降16年間、一度も減配していません。増配か維持だけです。27.9億円の大赤字を出した年ですら、36円を守りました。
ただし、会社が公式に「累進配当(減配しない)」を宣言している文言は、今回の有報分析では確認できませんでした。ですから正確に言えば「宣言はしていないが、行動で16年間の実質累進配当を証明してきた会社」ということになります。それを支えたのが利益剰余金219億円の蓄積——「配当は今年の利益だけでなく、過去の蓄積という土台の上に乗っている」という構造です。直近の配当性向は57.9%、純資産配当率(DOE)は2.6%前後で安定しており、来期予想も36円据え置き。利回り4.99%は、この「守られてきた36円」を株価721円で割った数字です。
10. 会社の姿勢——「脱・中国デベロッパー依存」を数字で宣言
有報には、構造改革の目標が売上構成比ではっきりと書かれています。
| 販売先 | 2025年度実績 | 2027年度計画 |
|---|---|---|
| 中国デベロッパー向け | 88% | 30% |
| ルート販売(代理店経由) | 7% | 20% |
| ホテル向け | 0% | 20% |
| 輸出向け | 0% | 16% |
いちばん危ない「デベロッパー頼み」を88%から30%まで下げる計画です。研究開発の項目には「大手ホテルチェーンの要請で高遮音ドアを開発、実用新案出願中、今後採用見込み」とあり、IRが「名前は言えない」と話していたホテル案件は、おそらくこれでしょう。中東(ドバイ)についても「一時見合わせていた営業活動を再開した」とされています。
11. もちろん、リスクもあります
良いところばかりではありません。売上の3分の1近くは、いまだ中国の特定デベロッパー頼みで、ここが揺れれば再び引当リスクが生じます。代物弁済で受け取った不動産89億円は、中国市況がさらに悪化すれば追加減損の可能性がある(有報自身が明記)点にも注意が必要です。そして、構造改革が計画通りに進む保証はどこにもありません。
12. まとめ
ひとことで言えば——「27億円の大赤字を出した会社が、実はその年に25億円もの現金を稼いでいた。財布には116億円。16年間減配なし。ただし売上の3分の1は中国の危うい取引先頼み」という会社です。
赤字の”質”をキャッシュフローで見抜く、格好の教材だと思います。そして「PBR0.52倍は本当に割安なのか、それともリスク相応の値付けなのか」を、自分の頭で考えさせてくれる一社でもあります。私自身は、財務の頑健さと16年間守られてきた配当を評価しつつ、中国依存というリスクを冷静に見極めながら、引き続き注目していきたいと思っています。
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

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