【航空機の安全な脱出方法】元JAL社員が語る生存率を高めるための具体策とは。

こんにちは、元JALCAです。

私たちが日々行っている訓練の目的は「万が一の非常事態において、お客様の命を守ること」なので、今回は、航空機事故発生時に生存率を高めるために必要な行動と意識について、乗務員としての観点からお伝えします。

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 航空機事故は少ない

最初に、航空機事故の発生率は数百万フライトに1件と言われています。

  • 毎日飛行機に乗っても、大きな事故に遭遇するのは666年に1回の計算(2013年のデータ)つまり100分の1以下です。

  • 自動車事故で死亡する確率:1万分の1

  • 宝くじ(ジャンボ宝くじ)1等の当選確率:1億分の1

しかし、「万が一」に備えた知識と行動が、結果を大きく左右することも事実です。
これは我々現場の訓練教官、そして機長・客室乗務員、すべてのクルーが共通認識として持っている考え方です。

 脱出に成功するために

脱出に成功するために90秒ルールというものがあります。

  1. : 非常用脱出口の半分以下を使用して、事故発生から90秒以内に全乗客を脱出させなければならない世界基準

  2. : 1967年に米連邦航空局(FAA)が航空機メーカーに要請したことから始まり、その後の事故を教訓に改良されてきた

  3. : フラッシュオーバー(火災の急激な拡大)が起こる可能性が低い時間内に乗客を避難させること

  4. :

    • 乗客は荷物を持たずに脱出する

    • 女性はハイヒールを脱いで非常口に向かう

    • 客室乗務員は明確な指示を出し、パニックをコントロールする

  5. : 過去の事故を教訓に、客室乗務員にも乗客を脱出させる権限が与えられている。

  6. : 航空会社は様々な状況を想定し、この規則に基づいた徹底的な訓練を実施している。

  7. : 航空機の設計基準には、定められた条件下で90秒以内に規定された搭乗者全員が脱出できることを実証することが含まれている。

  8. : 天候、時間帯、脱出スライドの展開数、緊急性の度合いにより、実際の脱出時間にはばらつきがある。

90秒ルールは、過去の悲劇的な事故から学んだ教訓を基に策定された「血で書かれた安全規則」と呼ばれ、多くの命を救う重要な役割を果たしています。

1. 常にシートベルトを正しく着用する

離着陸時だけでなく、巡航中でも乱気流は突然発生します。
骨盤をシートにしっかり押し付けるようにベルトを締め、腰骨に固定
これにより、衝撃時にシートから体が飛び出すのを防ぎます。
衝撃時の負傷率を大幅に下げるポイントです。

2. 非常口、手荷物の固定、鋭利品の除去

搭乗後、最寄りの非常口とその距離(歩数)を確認し、暗闇や煙の中では、視界がゼロになることもあるので、自分がどのくらいで脱出できるか、周りにお手伝いが必要な人はいないかなど確認しておきましょう。

また、非常脱出の際は、鋭利な物を身に着けていると怪我をするおそれがあります。ボールペンやメガネなども気をつけましょう。手荷物はしっかりと固定しましょう。

3. 酸素マスクは15秒以内に装着

客室減圧時、高度によっては15〜30秒で意識を失う可能性があります。
まずは自分が装着し、呼吸を確保。その後、他の人のケアに回ってください。
➡ 「自分が助からないと他人も助けられない」のが航空の鉄則です。だからお子様がいる場合は必ず保護者が装着してください。

4. 「Brace Position(防護姿勢)」を徹底する

衝突が予測される場合、前屈みになり、前座席に頭を付ける姿勢を取ります。
足は床にしっかりつけ、手は頭の後ろか、座席前部を掴む形で衝撃を吸収します。
頭部や首の損傷を防ぐ最も有効な方法です。

5. 脱出時は手荷物を持たない

荷物を持ち込むと、非常口の詰まり・スライドの破損・他人への障害になります。
90秒以内の脱出が義務づけられている中、1秒の遅れが生死を分けます
➡ 「命より大切な荷物はない」ことを肝に銘じましょう。

 乗務員の動き

客室乗務員は、緊急時でも冷静かつ迅速に行動することが求められます。
実際の現場でも、この手順を徹底しています。

段階 行動 時間目標
状況認識 パイロットとの迅速な情報共有、異常検知 即時
客室準備 荷物固定、照明調整(暗い中でも非常口がわかる)、非常用具配備 3分以内
脱出誘導 声量・ジェスチャーでの明確な指示(特に非常口付近) 90秒以内

JALの客室乗務員におけるSTS(Safety Training Simulation)の5項目は、緊急事態における対応能力を高めるための訓練内容として重要視されています。

    • 緊急着陸時に乗客が取るべき正しい姿勢を指導するスキル。

    • 「頭を下げて(Heads down)」と指示し、怪我のリスクを最小限に抑えることを目的とする。

    • 乗客がパニックに陥らないよう、冷静で落ち着いた指示を出す能力。

    • 強いプレゼンスと明確なコミュニケーションで秩序を保つ。

    • 機内で火災が発生した場合の初期消火や煙への対応。

    • 消火器の使用方法や、煙から身を守るための手順を習得。

    • 水上着水時の救命胴衣の使用や、乗客を迅速に救命ボートへ誘導する方法。

    • 機内外での安全確保手順を徹底的に訓練。

    • 非常口から脱出スライドを展開し、乗客を安全かつ迅速に機外へ誘導する技術。

    • スライド使用時の注意点や乗客管理方法も含む。

これら5項目は、客室乗務員が非常事態において迅速かつ的確に行動し、乗客の安全を確保するための基礎となっています。

 特殊状況への対応

  • 水上不時着時:救命胴衣は脱出後に膨らませる(機内で膨らませると移動できなくなるため)
  • 煙が充満している場合:床付近の空気を確保し、ハンカチや衣類で口・鼻を覆う
  • 外国語が通じない場合:ジャスチャーで迅速に指示を行う

生存率を高める「科学的根拠」

成田空港での実証訓練データに基づく知見を共有します。

対策 効果
非常口までの歩数確認 脱出時間が平均23秒短縮
靴の着用 ガラス片による負傷率58%低下
客室乗務員の声掛け頻度 パニック発生率72%低下(30秒ごとの指示が効果的)

➡ このデータからも分かる通り、事前の備えと適切な行動が「生存率を確実に高める」のです。

最後に

航空機に乗る際は、毎回の安全のビデオを「自分ごと」として真剣に聞くことをおすすめします。
何百回も搭乗するパイロットやCAでさえ、手順確認を怠ることはありません。
「安全の基本は、毎回初心に戻ること」
これは、私たち救難訓練教官が常に教え続けていることです。

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