日本の水資源が狙われる背景
「日本の水資源が外国から狙われている」というフレーズを聞いたことがあるでしょうか。これは単なる都市伝説ではなく、実際に起きている現象です。世界的な水不足が深刻化する中、清潔で豊富な日本の水資源は国際的に価値の高い資産となっています。
実際、北海道では2010年に外国資本による森林買収の調査が行われ、その結果、道内の私有林7か所、計406ヘクタールが外国資本に買収されていたことが判明しました。購入者は中国企業3件、英国企業1件、個人投資家3件(オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール)でした。
農水省のデータによると、外資による山林買収は2010年の43件、831ヘクタールから、2020年には465件、7560ヘクタールと10年間で面積は9倍に拡大しています。さらに、日本人や日本法人をダミー的に登記名義人にしたケースや未届出のケースはカウントされていないため、実態はさらに大きい可能性があります。
この記事では、日本の水資源が外国から狙われている実態と、それを投資の観点から見た場合の意味、そして製造業が苦境に立たされる中で、水資源や観光業など日本の強みをどのように活かしていくべきかについて考えていきます。
法的な課題と所有権の問題
日本の水資源をめぐる最大の課題の一つは、土地所有権と水の利用権に関する法律です。日本の民法第207条では、「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ」と規定されています。つまり、法的には土地の所有者がその地下にある水の利用権を持つと解釈されているのです。
問題点:日本では現状、安全保障上の懸念がある地域でも外国資本による土地取得の規制はなく、外国人であっても自由に所有可能です。これは、水資源の管理という点で大きなリスクとなっています。
多くのアジア諸国では外国人の土地所有を厳しく制限していますが、日本はこの点で例外的な国です。共産圏である中国やベトナムは外国人の土地所有を認めておらず、韓国、インド、シンガポールなどでは条件付きでのみ土地所有が可能です。
二つの考え方
日本では長らく「私水論しすいろん」の考え方が主流でした。1896年の大審院の判決では、「地下水の使用権は土地所有者に付従するものであるから、土地所有者は自由に使用し得る」とされました。さらに1938年の判決では、土地所有者が地下水を使用することで周囲に影響が及んでも問題ないという強い所有権が認められました。
しかし、この考え方は手掘り井戸で小規模な取水しかできなかった時代のものであり、現代の揚水技術では状況が大きく異なります。また地下水は動的な資源であり、ある土地の下にじっとしているわけではなく、地域を超えて流れています。
2014年に成立した水循環基本法では「水は国民共有の財産」と定められましたが、これはあくまで理念法であり、具体的に地下水の保全や活用について触れたものではありません。
水への投資価値
水は、21世紀において「ブルーゴールド」とも呼ばれる重要な投資対象となっています。気候変動の影響で世界的に水不足が深刻化する中、清潔で豊富な水資源を持つ日本は特別な価値を持っています。
水資源の世界的価値
国連の報告によると、2050年には世界人口の約50%が水不足の影響を受ける地域に住むと予測されています。水は人間の生存に不可欠なだけでなく、農業、工業、エネルギー生産など多くの経済活動の基盤でもあります。
世界の水使用量ランキングでは、日本は10位につけており、その豊富な水資源は大きな強みとなっています。また、日本の年間平均降雨量は世界平均の約1.6倍にのぼります。
水関連投資の種類
水関連投資には様々な形態があります
- 水インフラへの投資:浄水場、配水システムなどのインフラ整備
- 水技術への投資:浄水技術、海水淡水化、水質モニタリングなど
- 水関連企業への投資:水処理企業、ボトル水メーカーなど
- 水源地への投資:森林や水源地の土地への投資
- 水権利への投資:一部の国では水の使用権が取引されている
日本の水資源の価値を高めるための取り組みも始まっています。例えば、「瑞 みずのみず」のような高級天然水ブランドの展開は、日本の水資源に付加価値をつけ、国際的に競争力のある商品として育てる試みです。
トランプ関税と日本経済
米国のトランプ前政権による保護主義的関税政策は、日本の製造業、特に自動車産業に大きな影響を与えています。最近の報道によれば、米国が自動車部品に25%の関税を課すことを発表し、日本経済への打撃が懸念されています。
具体的な影響
- 日本の対米輸出の約3割を自動車と同部品が占めており、高関税は経済に大打撃となります
- 2024年の自動車部品の対米輸出額は約1兆2千億円、自動車は約6兆円で、合計額は対米輸出全体の3分の1を占めています
- 帝国データバンクの調査では、関税率10%が維持される場合、日本の実質GDP成長率は0.3ポイント低下し、倒産件数は3.3%(約340件)増加すると予測されています
リスク分散の必要性:これらの状況は、日本経済が製造業への依存度を下げ、多様な収入源を確保する必要性を示しています。水資源や観光業などの強みを活かした新たな経済成長の道を探るべき時が来ているのです。
日本の強み
水資源の優位性
日本の水資源の優位性は以下の点にあります
- 高品質:日本の水は一般的に清潔で、多くの地域で水道水をそのまま飲むことができます
- 豊富な量:年間降水量は世界平均の約1.6倍
- 技術的優位性:浄水、水質管理、水処理技術において世界トップレベル
- 文化的価値:温泉文化や水との共生を重視する伝統
観光業
インバウンド観光は、日本経済の重要な成長分野です。2024年3月には訪日外国人数が初めて月間300万人を突破しました。世界経済フォーラム(WEF)の2024年版「旅行・観光開発ランキング」では、日本は3位にランクインしています。
日本の観光の強み
- 伝統と歴史:長い歴史と独自の文化が魅力
- ポップカルチャー:アニメ、ゲーム、音楽など国際的に人気のコンテンツ
- 自然の豊かさ:四季折々の自然景観、国立公園、温泉など
- 地域ごとの食文化:和食はユネスコ無形文化遺産
- 治安の良さ:世界トップクラスの安全性
- 発達した交通網:効率的で正確な公共交通機関
外国人観光客が日本を訪れる主な理由は、「日本食を食べること」「自然・景勝地観光」「ショッピング」が上位に挙げられています。特に興味深いのは、最近では「日本の日常」が感じられる庶民的な体験や場所が人気となっていることです。
水と観光を軸
1. 水関連ビジネスへの投資
水に関連するビジネスは長期的な成長が期待できる分野です:
- 水処理・浄水技術企業:革新的な水処理技術を持つ企業
- ボトル水メーカー:特に日本の高品質な天然水を扱う企業
- インフラ関連企業:水道、ダム、下水処理施設などを手がける企業
- 水関連テクノロジー:水質モニタリング、節水技術を開発する企業
- 水資源管理サービス:法人向け水資源管理や環境コンサルティング
具体的な投資方法としては、個別株への投資のほか、水関連企業に投資するETFやファンドを利用する方法もあります。
2. 観光関連投資
インバウンド需要の回復と拡大を見据えた投資先:
- 宿泊施設:ホテルREIT(不動産投資信託)やホテルチェーン
- 地方の観光資源:地域に根ざした観光事業や伝統工芸
- 交通関連企業:鉄道、バス、レンタカーなど
- 体験型観光:文化体験、アクティビティを提供する企業
- 観光DX企業:デジタル技術で観光体験を向上させる企業
ジェトロによれば、観光産業の消費額は28兆円と国内で5番目に大きな産業規模を持っています。2023年には高付加価値旅行者(富裕層)の誘致が進み、一人当たりの消費額が増加していることも注目すべきポイントです。
日本人投資家ができること
1. 地域の水資源を守る取り組みへの参加
地域の水源地を守るために、以下のような活動が考えられます
- 水源林の保全活動への参加や寄付(ふるさと納税でも可能)
- 地域の条例制定運動への参加(熊本県の「地下水保全条例」のような例)
- 地元の水源地を活用した小規模ビジネスの立ち上げ
- 水質調査や環境モニタリングへの参加
2. 持続可能な観光への投資
オーバーツーリズム(観光公害)を避け、持続可能な観光を推進する投資:
- 地域の特性を活かした小規模な観光ビジネスの立ち上げ
- 空き家や古民家を活用した宿泊施設への投資
- 地域の食文化や工芸品を紹介するツアーやワークショップの企画
- 農泊や体験型観光などの新しい観光スタイルの開発
地域と連携した投資:投資を単なる利益追求ではなく、地域の持続可能性や文化の保全にも貢献するものに向けることが、長期的には大きなリターンを生み出します。
3. 政策への関与
投資家としてできること
- 地下水の保全と適正な利用に関する法整備を求める
- 外国資本による土地取得に関する透明性の確保を求める
- 水の公共的価値を認める「公水論」の推進
- 地方自治体の水資源保全条例制定の支援
製造業依存からの脱却
トランプ関税による自動車産業への打撃は、日本経済の構造転換を促す契機となるかもしれません。製造業中心の経済モデルから、日本の強みを活かした多様な産業構造へと移行する必要があります。
水を活かした産業育成
- 高品質な飲料水の輸出:日本の清浄な水を国際ブランドとして確立
- 水処理技術の輸出:水不足に悩む国々へ技術提供
- 水資源を活用した健康・美容産業:温泉療法、水素水など
- 水を軸にした農業:水耕栽培や高品質な農産物の生産
観光のさらなる高付加価値化
- 富裕層向け体験型観光:日本の伝統文化や職人技を体験できる高級ツアー
- 医療観光:日本の高度医療と温泉療養を組み合わせたウェルネスツーリズム
- 長期滞在型観光:ワーケーションやデジタルノマドの受け入れ
- 地方創生と連動した観光:地域の課題解決と観光振興を同時に進める
重要な視点:単に外国資本を排除するのではなく、日本の水資源や観光資源の価値を最大化し、適切なルールのもとで国際的な投資を呼び込むことが重要です。ただし、資源の保全と持続可能な利用を最優先とする枠組みが必要です。
まとめ
日本の水資源が外国から狙われているという事実は、その価値の高さを示しています。製造業がトランプ関税などの国際的な保護主義の影響を受ける中、水資源と観光業は日本の新たな経済成長のエンジンとなる可能性を秘めています。
- 長期的視点:水資源や観光は短期的な利益よりも長期的な価値創造を重視
- 地域との共生:地域の持続可能性を高める投資が結果的に長期的なリターンを生む
- 公共的価値:水は私的財産であると同時に公共財でもあるという認識
- リスク分散:製造業だけでなく多様な産業に投資することでリスクを軽減
- 国際的視野:日本の強みを国際市場で最大限に活かす
日本人として、そして私達ができることは、日本の水資源や観光資源の価値を理解し、それを持続可能な形で活かす道を守ることではないでしょうか。短期的な利益追求ではなく、次世代にこれらの貴重な資源を引き継ぐ責任を持ちながら投資を考えることが重要です。
製造業の苦境は、日本経済の変革を促す契機となるかもしれません。水と観光という日本の強みを中心に据えた新たな経済モデルの構築に、一人ひとりが参加し、貢献することができるのです。
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