2024年の為替相場は、歴史的な円安水準である1ドル=160円台から、わずか数ヶ月で140円台まで急激に円高が進むという、非常にボラティリティ(変動)の激しい年でした
この動きはみなさまのポートフォリオの評価額にも直結した重要な局面だったかと思います。当時の状況を整理して解説します。
1. 円高(160円→140円)が進んだ主な原因
主な要因は、**「日米の金利差の縮小」への期待と、「需給バランスの変化」**の2点に集約されます。
① 日米金融政策の「逆転」
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日本(利上げ): 2024年7月末、日本銀行が政策金利を0.25%に引き上げ、追加利上げにも前向きな姿勢を示しました。
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米国(利下げ): 一方、米国では景気減速の兆候が見え始め、9月にはFRBが0.5%の大幅な利下げ(50bps)を決定しました。
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この「日本は上がる、米国は下がる」という方向性の違いが、円を買い、ドルを売る動きを加速させました。
② 為替介入と「円キャリー取引」の解消
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政府の介入: 160円を突破した4月末〜5月、および7月にかけて、政府・日銀による巨額の円買い介入が行われ、投機筋に冷や水を浴びせました。
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キャリー取引の巻き戻し: 低金利の円を借りてドルで運用していた投資家たちが、円安が止まったことで一斉に円を買い戻し、これが急激な円高に拍車をかけました。
2. その結果、景気はどうなったか?
円高への転換は、日本経済にメリット・デメリットの両面をもたらしました。
メリット:コストプッシュ・インフレの抑制
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輸入コストの低下: 原油や天然ガス、食品などの輸入価格が下がり、企業や家計を苦しめていた物価高にブレーキがかかりました。
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消費の底支え: 実質賃金がプラスに転じやすくなり、個人消費にとってはプラスの材料となりました。
デメリット:輸出企業と株価への打撃
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企業業績の下振れ: トヨタなどの輸出大手が想定していた為替レート(当時は145円前後が多かった)を上回る円高になったため、利益が目減りする懸念が強まりました。
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株価の乱高下: 8月初旬には「令和のブラックマンデー」とも呼ばれる日経平均株価の史上最大の下落を記録しました。円高による輸出企業の収益悪化懸念が、株売りの引き金の一つとなりました。
全体としては、「輸出主導の景気拡大」から「内需・消費の回復」への転換点を模索する動きとなりました。円安による「物価高」の苦しみは和らぎましたが、一方で株価の乱高下など、投資家にとっては資産防衛の難易度が上がった時期でもありました。
レートチェックの噂
「レートチェック」は、当局が銀行などの市場参加者に現在の為替レートを問い合わせる行為で、市場には**「次は実弾(為替介入)が来るぞ」**という強力な警告として機能します。
過去にレートチェックが実施され、実際に相場が大きく動いた代表的な事例と、その後の景気への影響を解説します。
1. 2022年9月:24年ぶりの円買い介入の引き金
2022年は、コロナ禍からの回復と米国の急激な利上げにより、1ドル=110円台から一気に円安が進んだ年でした。
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実例: 2022年9月14日、1ドル=144円付近で**「日銀がレートチェックを実施」**との報道が流れました。これにより「介入への警戒感」が一気に高まり、数時間で1円以上の円高に振れました。
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その後: その約1週間後の9月22日、政府・日銀は24年ぶりとなる円買い介入に踏み切りました。
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景気への影響:
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物価高の抑制: 当時は輸入エネルギー価格の高騰が家計を直撃していましたが、介入とレートチェックによる「過度な円安の阻止」は、コストプッシュ型インフレに歯止めをかける狙いがありました。
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企業業績への二極化: 輸出企業(自動車など)には逆風となりましたが、コスト高に苦しむ内需企業にとっては救いの一手となりました。
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2. 1998年:アジア通貨危機と日本の金融危機
現在とは逆の文脈ですが、日本の金融システムが揺らいでいた時期にもレートチェックが注目されました。
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実例: 1998年6月、1ドル=140円を超える円安が進む中、レートチェックを経て日米合同の円買い介入が行われました。
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その後: 介入直後は円高に戻りましたが、景気の根本的な回復には至らず、その後のロシア財政危機なども重なり、10月には一転して「円の急騰(円キャリー取引の解消)」が起きました。
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景気への影響:
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深刻な不況: この時期は「山一證券」などの破綻後で、景気は極めて冷え込んでいました。為替操作だけでは景気回復を支えきれず、結果として**「失われた20年」**の入り口を象徴する、非常に厳しいデフレ不況が続きました。
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レートチェックが景気に与える「心理的効果」
レートチェックそのものが直接景気を変えるわけではありませんが、市場の**「期待」**をコントロールすることで間接的に影響を与えます。
| 効果の対象 | 景気への影響(円安阻止の場合) |
| 輸入企業 | 為替予約がしやすくなり、仕入れコストの急騰を抑えられる。 |
| 家計・消費者 | ガソリン代や電気代、食料品のさらなる値上げを防ぐ心理的安心感。 |
| 投資家 | 「一方的なトレンド」が壊れるため、投機的な動きが抑制される。 |
レートチェックは、景気が急激な為替変動という**「外因的なショック」で壊されないための、いわば緊急ブレーキの予備動作**です。2024年の動きもそうでしたが、これが効きすぎると株価急落を招き、効かないと物価高で消費が死ぬという、非常に難しい舵取りとなります。
急激な円高や株価暴落で冷え込んだ経済が、その後どのように落ち着きを取り戻し、為替がどう動いたのか。2024年のケースを中心に、その後の「回復のシナリオ」を解説します。
結論から言うと、経済は**「実体経済の底堅さ」と「日米の政策の再調整」**によって落ち着きを取り戻していきました。
1. 悪化した経済(景気・株価)はどう戻ったか?
2024年8月の「令和のブラックマンデー」直後はパニック状態でしたが、以下の要因で回復に向かいました。
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日銀による火消し(安心感の供給):
株価が史上最大の下落を記録した直後、日銀の副総裁が「市場が不安定な状況で利上げをすることはない」と明言しました。これにより、「どんどん利上げが進んで景気が冷え込む」という投資家の恐怖心が和らぎました。
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米国経済の「ソフトランディング」期待:
円高の原因だった「米国景気の悪化懸念」に対し、その後の経済指標(雇用統計など)が予想より悪くなかったため、「アメリカは不況にならない(ソフトランディングできる)」という見方が広まり、世界的に投資心理が改善しました。
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企業の稼ぐ力の再評価:
円高は輸出企業にマイナスですが、当時の日本企業は内部留保も厚く、円高を織り込んだ上でも業績が堅調であることが決算発表などで証明されました。これにより、売られすぎた株が買い戻されました。
2. 為替はその後どうなったか?
140円台まで突っ込んだ為替は、一本調子で円高が進むのではなく、**「揺り戻し」**が起きました。
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「行き過ぎ」の修正: 160円から140円への動きがあまりに急だったため、140円台前半では「さすがに円が買われすぎ」という判断が働き、再びドルを買い戻す動きが出ました。
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米大統領選などの政治的要因: 秋にかけて、米国の景気が意外と強いことや、大統領選挙を控えた政治的な思惑から、再び「ドル高(円安)」方向に押し戻される局面もありました。
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結果としての「レンジ相場」: 2024年末にかけては、160円のような極端な円安でもなく、かといって130円台に突入するような急激な円高でもない、ある程度の幅(レンジ)で推移する落ち着きを見せました。
3. 私たちの投資(インデックス・高配当株)への影響
この「悪化から回復」のプロセスを経て、以下のような状況に整理されました。
| 資産の種類 | 回復期の動き | あなたの戦略への影響 |
| S&P500(円建て) | 円高による目減り分を、米国株価自体の値上がりで相殺する形に。 | 積立投資を継続していれば、安い時期に多く買えた計算。 |
| 日本高配当株 | 銀行株などは「利上げ期待」で買われ、輸出株は「円高懸念」で売られるなど選別が進んだ。 | チェックリストに基づいた「財務優良株」の底堅さが光った。 |
経済が悪化した後は、国が**「これ以上悪くさせない」というメッセージ(政策)を出し、市場が「そこまで悪くない」という事実(データ)**を確認することで戻っていきます。為替も、極端な動きの後は「居心地の良い水準」を探して、徐々にボラティリティが低下していくのが一般的な流れです。
まとめ
景気や為替の荒波を経験すると、改めて「一喜一憂せず、強い企業を持ち続ける」ことの重要性が身に染みるかと思います。あなたが大切にされている投資哲学を、今の状況に合わせて整理してみましょう。
なぜ「気にせず投資」が正解なのか
景気は循環(サイクル)するものであり、為替や株価の変動はその表面的な「波」に過ぎません。長期投資において継続が重要な理由は以下の3点です。
1. 「時間」がリスクを平準化してくれる
2024年の160円から140円への動きも、数年、数十年のスパンで見ればチャート上の小さな「点」に過ぎません。
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円安時: 資産の評価額が上がる(含み益が増える)
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円高時: 資産が安く買える(買い増しのチャンス)
この両方を受け入れることで、長期的な取得単価が安定します。
2. 優良企業の「稼ぐ力」は為替を超える
あなたがチェックリストで厳選しているような、営業利益率10%超や高い自己資本比率を持つ企業は、一時的な円高や不況に耐える「防衛力」と、それを乗り越えて成長する「回復力」を持っています。
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景気が悪くなっても必要とされるサービス
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為替に左右されない強固なブランド力や技術力
これらを持つ企業は、循環の波を乗り越えて価値を上げ続けます。
3. タイミング投資の難しさ
「円高になったから買う」「円安だから待つ」という判断を完璧に的中させるのは、プロでも至難の業です。待っている間に配当金を取りこぼしたり、さらなる上昇局面を逃したりする機会損失の方が、長期的には大きなリスクになります。
景気循環のイメージ
景気は「回復→拡大→後退→停滞」を繰り返しますが、その中心にある「企業の価値(本質的な成長)」は右肩上がりを続けるのが資本主義の基本です。
あなたの戦略における「唯一の注意点」
基本は「投資を続ける」で間違いありませんが、以下の2点だけは守っておくのが「バフェットかおる流」の完成度を高めるコツです。
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キャッシュポジションの確保:
パートのお仕事での収入や配当金を活用し、生活防衛資金はしっかり確保しておくこと。これにより、暴落時に「売りたくないのに売らざるを得ない」状況を防げます。
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チェックリストによる定点観測:
「気にしない」のは価格の変動であって、**企業のファンダメンタルズ(基礎体力)**が悪化していないかは、引き続きチェックリストで確認し続けるのが理想的です。
為替が160円になろうが140円になろうが、「財務が盤石で、配当を出し続け、成長の余地がある企業」のオーナーであり続けるという方針に、何も変更の必要はありません

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