大切な人が亡くなり、遺骨になったとしても、抱きしめていたいと思うことはありませんか?
しかし飛行機の中で遺骨は、手荷物と同じ扱いになってしまうのです。
なぜなら、緊急脱出の妨げとなり、揺れによる怪我につながる恐れがあるからです。
私たちCAは、マニュアル上では手荷物であっても、遺骨を大切な存在として、接することで遺族の気持ちに寄り添う努力をしています。
この記事を読むと、遺骨を運ぶ際に、CAが行う配慮がわかります。
飛行機で遺骨は運べます
飛行機で遺骨を運ぶことは可能です。
しかし機内で遺骨は、手荷物と同じ扱いなのです。
他の手荷物と同じように、本来は、上の棚に収納しなければなりません。

実は数年前まで人道的な問題から、遺骨へ取り扱いが曖昧だったのです。
- 旅客から「担当のCAによって対応が違う」
- CAたちから「マニュアル化しないと判断に困る」
という意見が増え、手荷物と同じ扱いになると、マニュアルに明確化されたのです。
遺骨の取り扱い方法
遺骨
- 旅客が遺骨用の座席を買うことで、その座席にシートベルトを遺骨の結び目に通し、固定する。
- 空席が多いフライトでは、遺族と隣席になるよう無料で空席へ案内し、座席にシートベルトを遺骨の結び目に通して、固定する。
- ファーストクラスのコートルームへ預かり、毛布や枕でカバーする。
- 上の棚へ収納する場合は、他の手荷物との間に、毛布や枕を入れてカバーする。
- シートベルトだけで届かない場合は、エクステンションベルトで補強する。

座席に余裕があるフライトなら、CAの臨機応変な対応で、遺骨の空席利用ができるので、乗る便の空席状況を確認することをお勧めします。
注意点
お客様へ、以下の点を伝えないと、遺骨を持ち運べない場合があります。
注意点
- 金属でできた骨壷だと、セキュリティーチェックで中身を確認できず、機内に持ち込めない場合がある。
- 国や地域によっては、火葬許可証、火葬証明書、埋葬許可証、埋葬証明書、粉骨証明書の提示を求められる場合がある。
- 海外では、英文の死亡診断書が必要な場合がある。
世界の遺骨事情
私たちCAは、遺骨のことを専門用語で、ASH(アッシュ)と呼んでいます。
ASHとは、灰という意味ですが、転じて遺灰や遺骨のことを意味します。

しかし、海外のスタッフに遺骨を説明する時、伝わらないことがあるのです。
欧米ではキリスト教徒が多く、人は死んだ後、必ず復活するので「遺体を焼くと復活できない」という理由で、土葬が主流なのです。
だから、遺骨の意味がわからない外国人がいます。

国によっては「遺体を焼いてしまうなんて、とんでもない!」と驚く人もいるのです。
キリスト教とイスラム教
「人間は、必ず復活する」と信じられていて、死んだ人間が、新しい肉体を与えられ、もとの人間として生き返るので、遺体を焼いてしまっては、生き返ることができないという考えが、キリスト教徒やイスラム教徒の一部にはあるのです。
世界中の国の中で、火葬が行われているのは、50%以下なのです。
だから飛行機で遺骨を運ぶルールさえない国もあるのです。

日本は世界一の火葬先進国なのです。
アメリカ・ヨーロッパ | 土葬 | キリスト教徒が多く、死後の復活が信じられている。 |
中国・韓国 | 土葬 | 親の体を焼いて破壊し、魂の還る場所をなくすことは重大な親不孝になる。 |
しかし最近では、墓地のスペースが足りない等の理由で、火葬を行う人が増えたと言われています。
CAの対応
遺骨の取り扱いに関して、怒る旅客は多くいます。
大切な遺骨を、他の手荷物と同じように機内の上の棚へ収納するように言われたら腹が立つのは当然です。
そこで、私たちCAは、遺骨や位牌を大切なお客様の1人として対応するよう常に配慮しています。
松田聖子さん神田正輝さんの娘、神田沙也加さん
神田沙也加さん(享年35才)は、2021/12/18 札幌のホテルから転落して亡くなりました。
札幌市内で葬儀を終え、神田正輝さん(71才)が遺骨を、松田聖子さん(59才)が位牌を手に会見をした後、母親である松田聖子さんが遺骨を持って飛行機に乗り込みました。

一人娘の我が子が、自分よりも先に亡くなる悲しみは、どれほどツライことでしょう。たとえ遺骨になっても、大切な我が子に変わりはありません。
もし飛行機に乗った途端、CAが「遺骨を上の棚に収納していただけますか?」と言ったなら、ツライ気持ちを増幅させるに違いありません。

神田沙也加さんの遺骨は、松田聖子さんの隣席を空席にして、そこへシートベルトで固定したそうです。
大切な娘さんと隣の席で座れるようにと、地上スタッフの配慮が感じられます。
シカゴ駐在員の死

大手商社の駐在員の男性が56才という若さで突然、シカゴで亡くなりました。
原因は心筋梗塞でした。
日本にいる家族に連絡が届いたのは、死から5日以上経っていたのです。

アメリカだから?商社で出張が多いから?連絡が遅い理由はわからなかったそうです。
男性の妻
シカゴ発の便で、遺骨を抱えた奥様を担当することになった私は、驚きました。
亡くなった男性のために、ビジネスクラスの座席を2席購入していたのです。

ビジネスクラスのチケットは片道80万円!
これは愛なのか、それとも経済的余裕なのか、飛行機代を商社が払うのか、わかりません。
とにかく会話は控えようと思っていました。
食事サービス

座席が2つあるということは当然食事も2枚あります。

和食と洋食2枚お持ちしましょうか?
と伺うと「お願いします」と言ったので、和食と洋食の2枚の食事トレイを同時にサービスしました。
しかし奥様は、一切、食事を食べることはありませんでした。

出来立てのコーヒーを2人分用意したのですが、遺骨のコーヒーは、減ることなく10時間以上、テーブルに置かれたままでした。

「夫に何もしてあげられなかったから良い妻とは言えなかった。」と涙を流しながら、2人の思い出をたくさん話してくれました。
「あなたは、家族が生きているうちにできるだけのことをしてあげてね。」と言われました。
その時は、本気で家族を大事にしよう!と思ったのに、飛行機から降りて日常生活に戻ると、常に家族に優しくするなんて到底ムリでした。
最後に
自分の家族が、不運にも異国の地で、亡くなり、身元確認のためや、遺体引き取りのため、渡航する旅は、とても悲しいことです。

日本人は、たとえ、遺体の一部しかなかったとしても、その小さな塊に頬をすりよせ、自宅へ持ち帰るのですが、欧米では、遺体を確認したら、「魂は天に召されて、遺体には存在しない。」との考えから、引き取りをしない人が多いのです。
大切な人が亡くなり、遺骨になったとしても、抱きしめていたいと思う気持ちは痛いほどわかります。
飛行機で遺骨を運ぶ時に、手荷物扱いになる規定はあるのですが、私たちCAは、大切な人が遺骨になったとしても、手荷物扱いせずに、大切な存在として接することで遺族の気持ちに寄り添う配慮が必要です。
CAの間では、遺骨を大切な旅客として接することは今や、共通の認識になっているようです。
こんな対応は日本の航空会社ならではではないか?
— apio (@apio_apio1516) July 16, 2017
【いい話】
遺骨を飛行機内に持ち込んだ乗客に対する客室乗務員の対応が素敵すぎて号泣「粋な計らいだなぁ」 pic.twitter.com/UjT8CYJbTL
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